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2005年08月20日

アップルを大歓迎する日本の音楽業界の謎

概要
iTMSは世界共通の仕様を通すことで、そのブランド力ひいては成功へと繋げている。

「最後の黒船」がついに登場

 アップルコンピュータは8月4日、音楽配信サービス「iTunes Music Store(iTMS)」をついに国内でも開始した。世界累計で5億曲以上を販売し、その影響力の大きさから「最後の黒船」とまで呼ばれるiTMSは、日本の音楽市場にどのような影響を与えるのだろうか。関係者の反応を探った。

 まず、簡単にiTMSの特徴をおさらいしておこう。iTMSはアップルが提供する楽曲管理ソフト「iTunes」を通じて、楽曲やオーディオブック(書籍を音読したものや、落語などがある)がオンラインで購入できるサービスだ。ポッドキャストと呼ばれるRSSを利用した番組もここから取得できる。

(iTunesからiTMSへアクセスする)
 iTunesはMac版とWindows版が用意されているため、WindowsユーザーでもiTMSを利用できる。アップルのポータブルオーディオプレイヤー「iPod」と連携し、コンピュータにiPodを接続するだけで簡単に楽曲を転送できる機能を備えている。

 音楽配信サービスはすでに多くの企業が提供しており、レコード会社直営の「bitmusic」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)や、レコード会社が共同で設立したレーベルゲートの「Mora」のほか、最近ではエキサイトやUSEN、オリコンなも同サービスを手がけている。

既存の音楽配信サービスと比べて、iTMSは何が違うのか。大きな特徴として以下が挙げられる

  • Mac対応
  • 100万曲という豊富なラインアップ
  • 90%の楽曲は1曲150円、残りの10%が1曲200円という価格の安さ
  • 全ての楽曲がiPodやCD-Rなどのメディアに回数無制限でコピー可能(ただしCD-Rの場合、同一プレイリストのコピーは大量複製を防ぐため7回まで)、家庭内LANに接続されたPCであれば最大5台まで楽曲の共有が可能

 まず、iTMSはMacに対応した初めてのサービスだ。既存の音楽配信サービスはすべてWindowsのみの対応となっていた。

 楽曲のラインアップ数は国内最大手のMoraでも約20万曲であることを考えると、iTMSの楽曲の多さが際だっている。ただしiTMSの場合は洋楽がほとんどで、邦楽のラインアップ数では他社にひけをとると言われている。

 楽曲の価格は、欧米各国で提供しているiTMSに足並みを揃えた。アップルは楽曲の販売よりもiPodなどのハードウェアの売上によって収益を伸ばすビジネスモデルを採用し、楽曲自体は1曲99セントという低価格で販売している。これにより、後発の配信事業者ながらも米国で圧倒的な人気を集めた。日本でも同じモデルを適用してシェアを拡大する考えだ。

 「たとえばソニーの場合、ソニー・ミュージックエンタテインメントは別会社となっているため単独で収益を上げる必要があり、赤字覚悟で楽曲を安く販売するといった思い切った戦略は打ちにくい。アップルだからこそできた戦略だ」と野村総合研究所(NRI) 情報・通信コンサルティング二部 副主任コンサルタントの北林謙氏は指摘する。

世界共通ルールにこだわったアップル

 特徴の4つ目に挙げたCD-Rなどへのコピーについては、アップルが最もこだわった点だ。同社は日本版iTMSにおいても、世界共通のコピールールを適用することを譲らなかった。既存の音楽配信サービスでは、対応するポータブルオーディオプレイヤーへの転送回数には制限があり、CD-Rにもコピーできない場合が多かった。アップルは欧米で成功したコピールールを日本でも採用することでユーザーの利便性を高め、より受け入れられやすいサービスにした。もっとも、コピールールにこだわったのは、日本版iTMSだけ他国と異なるコピールールを採用するとシステムを大きく変更しなければならず、世界展開するメリットが削がれてしまうためではないかと指摘する関係者もいる。

 逆に価格設定に関しては、アップルはいくらかレコード会社に対して譲歩したようだ。米国版iTMSが1曲99セントの統一価格になっているのに対して、日本版iTMSでは一部の新譜が1曲200円と、楽曲によって価格に差がある。また、アルバムの料金はレコード会社やアーティストによって異なっており、米国のように一律9.99ドルといった統一価格はない。それでも1曲150円または200円という価格設定は既存の音楽配信サービスに比べて安く、ユーザーには驚きをもって受け入れられた。

 このようにiTMSは、既存の音楽配信サービスにはない特徴をもって日本市場に参入した。当初は2004年中にもサービスを開始すると言われていたiTMSだが、これらの条件面でレコード会社との合意をとりつけるために、かなりの準備期間を設けたようだ。

 実際、アップルは2004年には国内のレコード会社と日本版iTMSのサービスに関して話し合いを始めていた。しかしアップルはレコード会社の反応を見ながらしばらくサービスの開始時期を探っていたようだ。関係者の話によれば、同社が本格的にレコード会社との交渉に入ったのは2005年の4月頃からだという。

 ユーザーの反響は大きく、サービス開始から4日間で100万曲の楽曲がダウンロードされている。Moraの月間ダウンロード数が現在約45万曲であることを考えると、驚異的な数字と言っていい。

音楽配信市場は「iTMS効果」で市場拡大か

 では、iTMSは今後、日本の音楽市場にどのような影響を与えるのだろうか。音楽配信市場、CDの販売、CDレンタル業界についてそれぞれ見てみよう。

 まず、もっとも直接的に影響を受けるのは、既存の音楽配信事業者だろう。ただし現在のところ、各社はiTMSの参入によって音楽配信市場が活性化すると期待する。

 例えばMoraを運営するレーベルゲートは、「市場における音楽配信の存在感が高まると考えており、アップルの参入は歓迎している」と話す。また、オリコンも「特に、アーティストの音楽配信への志向性が高まることなどによって、レコードレーベルとプロダクションとの配信に関する著作権関連の交渉が前進し、当社サイトでの配信可能楽曲が大幅に増加することが期待される」というコメントを発表している。

 実際、iTMSに楽曲を提供したレコード会社が他の音楽配信事業者への楽曲提供価格を引き下げるなど、「iTMS効果」はすでに現れている。これに伴って、iTMSのサービスが始まった8月4日前後には、各社が一斉に楽曲の価格を引き下げた(関連記事)。また、CD-Rへの書き込み回数を10回に、ポータブルオーディオプレイヤーへの転送回数を無制限にするなど、iTMSとほぼ同じ条件にしている。

 iTMSの場合、楽曲のフォーマットがAACのみであることから、他の配信事業者はiTMSと共存できると見ているようだ。既存の配信事業者の多くは楽曲フォーマットをWMA(Windows Media Audio)またはATRAC3にしており、対応するポータブルオーディオプレイヤーが異なる。

 「iPodを持つユーザーはiTMSを利用するが、それ以外のユーザーはMoraなど他のサービスを利用する。持っているポータブルオーディオプレイヤーに応じた住み分けが起きるだろう」と配信事業者の1人は話す。

 NRIの北林氏は、iTMSの登場で音楽配信市場の成長が加速するとみる。NRIが1月に発表した音楽配信市場予測では、同市場の規模は2004年度が80億円、2005年度が190億円、2009年度は880億円になるとしていた(なお、この数値には携帯電話や据え置き型の情報端末を利用してダウンロードするものも含まれる)。しかし北林氏は「この数値はiTMSのサービス開始時期を2006年頃とみた場合のものだ。実際には、880億円という数値は前倒しで達成されるだろう」と話している。

米国ではiTMSの登場でCD販売が回復

 では、音楽CD販売への影響はどうだろう。この点についても、音楽配信によってユーザーが音楽と接する機会が増え、結果としてCDの販売増加につながるのではないかと期待する向きが強い。

 これは、iTMSで視聴または購入した楽曲を気に入ってCDを買うケースや、逆にiTMSで欲しい楽曲が見つからず、CDを購入するケースがでてくるためだ。

 実際、米国の状況を見ると、2003年4月のiTMSのサービス開始と時を同じくして、CDの出荷数量は増加に転じている。

 米国では2000年をピークにCDの出荷数量は減少の一途を辿っており、2003年には2000年比20.9%減の74億5900万枚にまで減少していた。しかし、2004年には前年比2.8%増の76億6900万枚と4年ぶりに前年を上回った。

 日本でもCDやカセットテープなどを含むオーディオレコードの総生産実績は1997年をピークに落ち込んでいることから、音楽配信サービスが盛り上がることでCD販売の減少傾向にも歯止めがかかるのではないかという期待につながっているようだ。なお、2004年の国内オーディオレコードの総生産実績は、1997年が4億8070万枚であったのに対して、2004年は3億1268万枚と、最盛期の65%に過ぎない。

 CD販売事業者によっては、音楽配信サービスの波に積極的に乗ろうとしているところもある。タワーレコードは8月4日、米Napsterと共同で音楽配信事業に参入すると表明した(関連記事)。2006年4月にもサービスを開始する計画で、iTMSなどと同じ1曲ずつダウンロードできる「アラカルトサービス」のほか、毎月一定額の会費を支払うことで好きなだけ楽曲がダウンロードできる「サブスクリプションサービス」を提供するとしている。

中高生をターゲットにして住み分けを図るCDレンタル市場

 音楽配信サービスが大きな影響を与えるといわれるCDレンタルの市場はどうだろう。特にCDシングルは1枚150円程度で貸し出されていることが多く、価格帯が一致する。音楽配信サービスの場合、CDを返しに行く手間が必要なく、24時間いつでも好きなときに楽曲を購入できることからCDレンタルよりも利便性が高い。逆にアルバムの場合は、レンタルであれば1枚300円~500円と音楽配信で購入するよりも安いため、引き続き市場が残る可能性は高い。

 業界2位のゲオでは、iTMSをはじめとする音楽配信サービスの影響について「現在のところ特に影響は出ていない」と話す。むしろ、iPodをはじめとするポータブルオーディオプレイヤーの普及に伴って、同社のCDレンタル事業は2004年頃から年率15%程度伸びているという。

 「iTMSではアルバムの価格がレンタルに比べてかなり高い。また、プリペイドカードが用意されているものの、クレジット決済が中心になる。レンタルCDの場合は(クレジットカードを持てない)中高生が利用することも多く、この点で有利だ。(邦楽の)品揃えもレンタルショップのほうが多い。確かに20~30代で忙しくてレンタルショップに行けないという人が音楽配信を利用すると思うが、中高生を中心とした若い世代は根強くレンタルCDを利用するのではないか」(ゲオ)とみている。

iTMSが抱えるいくつかの課題

 最後に、iTMSはどこまで日本で大きな存在になるのだろうか。アップルによれば、iTMSは米国において82%のシェアを持つという。日本でも同じように市場を席巻するのだろうか。

 NRIの北林氏は「米国と日本では環境が異なる。米国のように圧倒的なシェアを持つのは難しいのではないか」とみる。

 その理由の1つが、対応ポータブルオーディオプレイヤーの普及状況の差だ。リサーチ会社である米NPD Groupの調査によれば、米国市場におけるiPodのシェアは82%と圧倒的な地位にある(関連記事)。これに比べて、日本では確かにトップの座にあるものの、同社のシェアは36%に過ぎない。

 ソニーのネットワークウォークマンやディーアンドエムホールディングスのRioシリーズなど、iTunesに対応していないポータブルオーディオプレイヤーを使っているユーザーも日本では多いのだ。これらのユーザーはiTMSで楽曲を購入しても自分が持っているプレイヤーでは楽曲を再生できないため、iTMSを利用しない可能性が高い。

 さらに日本では、すでに「着うたフル」という携帯電話向けの音楽配信サービスが成功しており、iTMSと競合する。国内で最初に着うたフルに対応したKDDIによれば、2004年11月19日にサービスを開始し、2005年6月15日には1000万ダウンロードを達成したという。パケット定額制を利用すればダウンロードにかかる通信料をさほど気にせず利用できるうえ、iTMSと違って携帯端末に直接楽曲をダウンロードできるため、外出先でも欲しいと思った楽曲をその場で買って楽しむことができる。

 データベースにエラーが起きている点も、ユーザーに不安を与える要因になりうる。iTMSでは忌野清志郎などのアルバムの一部が50円で販売されるというエラーが起きていた(ただし8月19日時点で、50円で販売されていたアルバムはiTMS上から削除されており、購入はできない)。

立ちはだかるレコード会社の壁

 そしてもう1つ、iTMSの邦楽のラインアップが少ない点もネックとなりそうだ。大手国内レコード会社のうち、サービス開始時点で楽曲を提供しているのはエイベックス ネットワーク、東芝EMI、ユニバーサル ミュージック、コロムビアミュージックエンタテインメント、ビーイング・ギザグループなどで、Moraやオリコンに比べて参加企業が少ない(表2)。

表2.主要レコード会社の楽曲提供状況
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※1:ソニーミュージックアーティスツが楽曲提供、※2:エイベックス・トラックスが楽曲提供 (出典:シード・プランニングのレポートをもとに編集部が調査)



 つまり、売れ筋のビッグアーティストである浜崎あゆみ(エイベックス)や宇多田ヒカル(東芝EMI)、B'z(ビーイング)などの楽曲はダウンロードできるが、サザンオールスターズ(ビクターエンタテインメント)やORANGE RANGE(ソニー・ミュージック)、平井堅(デフスターレコーズ)などの楽曲はiTMSで試聴・購入することができないのだ。

 iTMSへの対応はレコード会社によってかなりの温度差があるようだ。東芝EMIやワーナーミュージックジャパンはすでに親会社のEMI GroupやWarner Musicが欧米でiTMSに楽曲を提供していることから、日本版iTMSでも積極的に楽曲を提供すると話す。その一方で、ポニーキャニオンは「お互いの音楽配信に対する根本的な考え方が違う」と話しており、交渉には時間がかかるだろうとの見通しを示している。

 他の配信事業者は、この点でiTMSとの差別化を図る考えだ。特にレーベルゲートはソニー・ミュージックなどのレコード会社18社が出資しており、邦楽の取扱いには優位な立場にある。「iTMSは洋楽に強いが、Moraは邦楽に強い。今後はさらに邦楽のラインアップを強化していく」(レーベルゲート)と意気込む。

 レーベルゲートはさらに、配信事業者との連携を進めてiTMSへの対抗を図る。第一弾としてオリコンとの業務提携を8月18日に発表した。12月にも両社で新サービスを始める予定だ。レーベルゲートからみれば、楽曲を販売する窓口が増えて、楽曲配信数の伸びにつながる。一方、オリコンにとっては業務委託契約を結べていないソニー・ミュージックなどの楽曲が取り扱えるようになり、ラインアップの拡充につながる。レーベルゲートでは今後も大型サイトとの連携強化に努めるとしており、業界再編が起きる可能性もありそうだ。

編集者コメント
どうやらiTMSは世界共通の概念・理念を通してこそ、ブランドとしての付加価値に加えて、利用者への利便性を提供しているように感じられる。
「あのCMに使われている曲が欲しい!」「この歌番組で歌っているこの歌手の曲、欲しい!」といった要望にピッタリ応えるのがiTMSではないだろうか。私はそう感じている


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投稿者 iPod塾 : 2005年08月20日 01:31


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独り言:iPodに関係ないTBは削除します。あとできれば参考リンクとして
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をブログエントリ内に紹介してもらえると、スパムかどうか分かりやすくなって助かります。

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» ブログ紹介:「●0+1=iPod ニュース」 from 音楽配信ジャーナル
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